第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「フフフフ、やっぱりおつるさんには敵わねェ」
ドフラミンゴは海楼石の鎖を揺らしながら楽しそうに笑った。
「もし30年早く生まれていたら、おれはあんたにプロポーズしていたかもしれねェな!」
「フン、このあたしがお前みたいな悪党を相手にするわけがないだろう」
追う者と、追われる者。
ドフラミンゴが七武海となり、そして囚人となった今も、結局はその間柄は変わらないのかもしれない。
「おつるさん・・・クレイオをよろしくな。他でもねェ、あんただから惚れた女のことを頼める」
「・・・・・・・・・・・・」
“任せときな”という言葉は無い。
それでもドフラミンゴは確信に満ちた顔で微笑んでいた。
「クレイオ」
出会った時、ドフラミンゴは空からクレイオを見下ろしていた。
だが今は、地に繋がれながらクレイオを見上げている。
“───このまま死ぬつもりか、女”
沈みゆく船と運命を共にしようとしていたクレイオの命を救った、ドフラミンゴ。
「必ず待ってろ」
彼女に触れることはもうできない。
今、願うのはたった一つ。
どんな手を使ってもいい、必ず生きていて欲しい───
するとクレイオはゆっくりと頷いた。
「・・・ドフラミンゴも忘れないで」
首元で清らかに光る、『人魚の涙』。
たった一つ残った、ドフラミンゴからの贈り物。
愛する君よ、どうか忘れないで。
「どこの海にいても、私の愛は貴方とともにあることを」
待っているわ、ドフラミンゴ。
たとえ、この身体が海の泡となって消えてしまっても。
最後のキスはドフラミンゴの命令ではなく、クレイオから。
奴隷でも、玩具でも、囚われの鳥でもなく、人間として愛する人に口づける。
触れるだけのそれはとても優しく、そして、これまでで一番愛情に溢れたものだった。