第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
船底の牢から甲板に上がると、嵐は過ぎ去っていた。
海軍の軍艦から見渡す海は広い。
果てしなく広がる青空と、水平線の向こうにはいったい何があるのだろう。
クレイオは長い髪を潮風に靡かせながら、真っ直ぐと進行方向を見つめる。
もうすぐ次の島に着くという。
そこで降ろしてもらえる手筈になっていた。
「いったい、ドフラミンゴのどこに惚れたというんだい?」
クレイオの隣で同じように海を見つめながら、つるは心底理解できないといった表情で呟いた。
「あいつは性根まで悪党だ。それなのに、何故」
「・・・さァ・・・分かりません」
もしかしたら、最初からだったのかもしれないし、鳥カゴから出してくれた時からかもしれない。
でも、確かなのは彼を愛しているということ。
「世界一凶悪な人間だろうと・・・その人を愛しいと思ったら・・・何があろうと愛しいんです」
つるはクレイオをじっと見つめていた。
何を思っているのか、その瞳が僅かに揺れる。
「───もう・・・30年も前の話になるかね・・・」
ドレスローザの港で、ドフラミンゴに会いたい、軍艦に乗せてくれと懇願してきた美しい奴隷。
彼女を見ていると、どうしても思い出してしまう。
「ある天竜人の命によって、世界中の美男美女がマリージョアに集められた」
「・・・・・・・・・・・・」
「ある者は結婚を控えた女性、ある者は有望な海兵・・・皆、それまで幸せな生活を送っていた者ばかりだった」
突然昔話を語り始めたつるに、クレイオは首を傾げながら振り返った。
海軍の大参謀まで上り詰めた女海兵は、遠くを見つめながら先を続ける。
「私は海兵として納得できなかった。天竜人の命令というだけで、何百人もの罪なき男女達が奴隷としてマリージョアに連れて行かれる。送り届ける役目は私達、海軍が務めた」
でも、当時のつるにはどうしようもできなかった。
今でさえどうすることもできないだろう。
天竜人に抗うことができるのは、麦わらのルフィのようなバカだけ。