第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「バカな女だ・・・」
それは諦めすら混じった、静かな声。
いつも余裕たっぷりで、相手を小馬鹿にするような態度を取っている男のものとはとても思えなかった。
「せっかく外に出してやったのに・・・わざわざ檻に戻ってくる鳥がどこにいる」
するとクレイオは牢の傍まで歩み寄ると、両手で冷たい鉄格子を掴んだ。
船底に位置するそこは暗く湿っていて、空気を吸うだけで気持ちが重くなる。
クレイオは透明な瞳を揺らすと、ゆっくりと口を開いた。
「リンゴがふたつ・・・」
「・・・?」
「焼きたてのロールパンがひとつ・・・ヒマワリの切り花が2本・・・」
ドフラミンゴはクレイオが何を言わんとしているのか分からず、首をもたげて彼女の顔を見つめる。
「・・・貴方に手紙を書くための一組の便せんと封筒・・・」
クレイオも真っ直ぐとドフラミンゴを見つめていた。
「1ベリーで買えるものって・・・いろいろあるのね」
“金の稼ぎ方はおろか、1ベリーの価値も知らねェあの女が、外の世界に出たらどうなる? 翼をもがれた鳥の末路と同じだ”
鉄格子で隔たれた二人。
サングラスで隠された瞳は今、どのような感情を浮かべているのか。
ドフラミンゴは鎖で繋がれた両手足を動かすことなく、鳥カゴに舞い戻ってきた小鳥の声に耳を傾けている。
「ヴィオラ王女は私に、ドレスローザに住むよう言ってくれた・・・私を助けてくれた女性とその旦那さんも、そうして欲しいと言ってくれた、けれど・・・」
ドレスローザは今、驚くべきスピードで美しい国の姿を取り戻そうとしている。
妖精達が植物をはぐくみ、人々が情熱的な音楽を奏でる。
平和で、明るくて、誰もが憧れる国。
───だけど、そこに自分の居場所はない。
「貴方が帰ることのないドレスローザで、貴方の帰りを待っていても仕方がないでしょう」
クレイオの口元に笑みが浮かんだ。
「私はこれから海に出る。そして、この世界のどこかで愛する人を待っているわ」
ドフラミンゴ。
たとえ貴方が終身刑になろうとも、極刑になろうとも。
「その人が大監獄インペルダウンから帰ってくることを信じて」
私は、貴方の帰りを待っている。