第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
クレイオの心を動かすのに、それ以上の言葉があろうか。
あれほどの高さから落下したにも関わらず、ちょうど柔らかい花壇のところに落ちたおかげで、骨はどこも折れていない。
覚悟を決め、元ブリキ人形の女性と逃げるために外へ出ると、ドレスローザの風景は大きく変わっていた。
空は真っ黒な雲に覆われ、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。
「王の台地」にあった王宮はピーカの力で「ひまわり畑」へと移動し、この大きな鳥カゴの中心となっていた。
とにかく、ドフラミンゴから離れなければ。
二人が島の外へ向かって走ろうとした時だった。
「島の外へ行ってはダメだ!! 人間を切るあの糸の束が、だんだんと縮小している!!!」
前方から逃げてきた男が、絶望的な言葉を叫んだ。
よく見れば、鳥カゴはゆっくりと傘を閉じるように小さくなっている。
「最後は完全に閉じる気かもしれない。そうなったら、この島で生き残れる人間は一人もいないぞ!!」
その残酷な現状に、クレイオは身震いをした。
「クレイオ様・・・?!」
「・・・ドフラミンゴは人間を恨んでいる」
ドフラミンゴが楽しげに人間を殺すのは、壮絶な幼少期の経験が関係している。
『おまえらを一人残らず、殺しにいくからなァ!!!!』
“天竜人だった”というだけで、人間達から暴力を受け、磔にされ、命を奪われかけたドフラミンゴ。
幼かった彼にとっては、そんな人間達こそが悪魔に見えただろう。
「彼は躊躇いもなく人間を殺す・・・むしろ、喜んで・・・!」
ドフラミンゴの弟ロシナンテはそれを危惧し、未然に防ごうとしていた。
海兵としての務めもあったかもしれないが、何より、たった一人の肉親が大量殺戮を犯す姿を見たくなかったのだろう。
希望などない。
しかし、元ブリキ人形の女性はクレイオの手を強く握った。
「それでも逃げましょう・・・“逃げる事”、それこそが彼への最大の抵抗になる!!」
そう。
今、クレイオ達にできる事はそれしかなかった。