第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「さぁ、私達も逃げましょう。ひまわり畑の方では激しい戦いが起こっているようだから、なるべく遠くへ・・・」
「ち、ちょっと待って」
クレイオは自分の肩を支えてくれていた女性の手をどけると、戸惑ったような目を向けた。
「貴方がブリキのお人形だったという事は分かったけれど・・・どうして私を助けてくれたの?」
確かに錆びついた手に油を差した。
だけどそれだけだ。
シュガーの呪いを解いたわけでも、彼女を解放してあげたわけでもない。
ドフラミンゴに操られている人達に傷つけられる可能性もあったのに、こうして危険を顧みずに手当てをしてくれた事がどうしても解せなかった。
「私はきっと貴方の足手まといになる・・・だから私をここに置いて、貴方だけ先に逃げて」
「・・・・・・・・・・・・」
女性はしばらく何も言わずにクレイオを見つめていた。
ブリキ人形の時は表情が無かったが、今はその優しい瞳が悲しげだ。
そして一度だけ瞬きをすると、ゆっくりと口を開く。
「貴方を助けたのは、貴方が私の命を助けてくれたから」
“スクラップ”になっていたら、こうして人間に戻ることなく死んでいただろう。
「そして、貴方を逃がしてあげたいと思うのは、貴方が“奴隷”だからです」
自分も人形の姿に変えられて奴隷だったから分かる。
心があるのにそれを認められず、“物”同然に誰かの所有物になることの悲しみを。
「私は貴方の背中に天竜人の刻印があることを知っています。でも、貴方には“心”がある」
あちこちから聞こえる銃声。
「貴方にはオモチャに手を差し伸べる優しさがある」
傷つけ、傷つけられて泣き叫ぶ人々。
「貴方は人間です、クレイオ様。だから・・・逃げて、生き延びましょう」
もはやこの国に安全な場所などないのかもしれない。
それでも・・・
「自分の命と自由を守る、それこそが“人間”の権利ですから」
───どうか、“奴隷”のままで死なないで。
ブリキの人形だった女性はクレイオの手を取ると、力強く微笑んだ。