第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「クレイオ様、しっかりしてください!」
「・・・だ・・・れ・・・?」
目を開けると、40代くらいの痩せた女性がクレイオの顔を覗き込んでいた。
「ああ、気づかれたのですね、良かった!!」
「・・・?」
随分と心配してくれているようだが、彼女の顔に覚えがない。
しかし、手当をしてくれたらしく、頭には包帯が巻かれていた。
「私を助けてくれたの・・・?」
「瓦礫の中でクレイオ様が倒れているのを見つけた時は、心臓が潰れるかと思いましたよ。少しだけ医療の心得がありますので、傷口は縫合しました」
「あ・・・りがとう」
身体を起こそうとしたものの、頭がくらくらとして手足に力が入らない。
「まだ動かない方がいいですよ、クレイオ様。ひどい出血でしたから」
「・・・貴方は・・・?」
ヒマワリと同じ黄色のワンピースを着て、ブラウンの髪を一つに結った女性。
懸命に記憶を辿っても彼女の顔を思い出せないのに、なぜか声は懐かしいような気がする。
すると女性は両手を差し出しながらクレイオに向かって微笑んだ。
「私のことが分からないのも無理はありません。人間の姿を取り戻したのは、つい先ほどのことですから」
「人間・・・?」
「お忘れですか? 水仕事で錆びてしまった私の手に油を差してくれたこと・・・おかげで私は“スクラップ”にならずにすんだのです」
「もしかして・・・貴方・・・」
歴代の国王達の肖像画が飾られた「肖像画の間」の床を磨いていた、召使人形。
『ねえ、お人形さん。私にも掃除を手伝わせて』
いつも幹部に監視されて息が詰まりそうだったけれど、一緒に掃除をしていると心が休まった。
あの時のオモチャが、目の前にいる女性だというのか。
「掃除をしてくれていた、ブリキのお人形さん・・・?」
「はい。10年間ずっと・・・私はオモチャに変えられていました」
その10年を思えば、いろいろな思いや悔しさが込み上げてくるだろう。
しかし女性はそのことよりも、クレイオの意識が戻ったことに嬉しそうだった。