第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
ドフラミンゴが何故、そのような行為に及んだのかは知る由もない。
おそらく「スートの間」で誰かに攻撃を仕掛け、勢い余って塔を崩してしまったのだろう。
彼の故意でなくとも、クレイオの身体は空に投げ出されていた。
『───上を見ろ、クレイオ』
ただの石の塊となり果てた塔が崩れ落ちていく。
『どうだ、美しい空だろう』
クレイオの瞳に映る空は、キラキラと輝いていた。
ダイヤモンド
ルビー
サファイア
エメラルド
アクアマリン
トパーズ
アメジスト・・・
崩壊した塔と共に落ちるクローゼットから飛び散るのは、ドフラミンゴがこの10年間クレイオにプレゼントし続けた宝石の数々。
太陽の光を受けて、星空のような輝きを放っていた。
『この美しい空が壊れていく様はもっと美しいぞ』
その美しさを堪能する間もなく、瓦礫と一緒に地面に叩きつけられる。
街はドフラミンゴへの怒りで狂乱の渦となり、塔と一緒に落ちてきたクレイオに気を留める者は一人もいなかった。
『───このまま死ぬつもりか、女』
ドフラミンゴ・・・
『お前は今、この瞬間からおれの玩具だ』
ドフラミンゴ・・・
『おれのそばにいろ』
額から流れ出たおびただしい量の血が地面に広がっていく。
だんだんと薄れゆく意識の中で、クレイオの瞳には大空に広がるピンク色の翼が蘇っていた。
『おれはドンキホーテ・ドフラミンゴ・・・ドンキホーテ・ホーミングの息子だ』
私を天から地に落とした貴方は、私の世界の全て───
ピーカに乗っ取られた王宮が地響きを立てながらどこかへ移動していく。
もはや指を動かすことすらできないクレイオはただその場でゆっくりと目を閉じ、迫りくる運命を享受していた。