第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「スートの間」の上階にある自室の窓から見える景色はとても狭い。
クレイオは窓辺に座り、外を見下ろしていた。
10年前、この王宮に連れてこられた日にモネが教えてくれた。
『若様から突然言われたの。計画を実行するまでに、王宮の一番奥にある部屋を用意しておけと。窓には鉄格子、ドアには鍵、それと、大きなクローゼットが必要だって』
その言葉通り、この部屋の窓には鉄格子がはめられ、ドアには通常の鍵の他に、外からしかかけられない鍵もある。
しかし、この牢獄のような部屋にも、狭い景色にも慣れていた。
むしろこのような場所でしか生きたことがないから、“普通”の部屋というものを知らない。
『結局、お前はどこにいたって、自らの意思で生きることはできねェのさ』
・・・私はいったい、何のために生きているのだろう。
パンクハザードで心臓を潰されたモネも、王国を取り戻すためにファミリーを裏切ったヴァイオレットも、強い信念に命を懸けている。
そんな彼女達こそが本当に“美しい女性”だと思う。
『世界で一番美しい女の奴隷が欲しいえ。顔、容姿、全てが完璧な女を作れ』
天竜人の欲望によって、“世界で一番美しい女の奴隷”として造られたはずなのに、私よりも美しい人はたくさんいる。
だとしたら、この世界に私の存在価値などない。
『いいか、クレイオ。おれとお前の間に、お前の感情は必要ない』
『お前はただ黙って、おれから与えられるものを身に付けていればいい』
私は心も身体も、自分のものは何一つ持っていない。
『───この真珠の首飾りは、肌身離さずつけていろ』
人魚の涙と呼ばれている、世界で最も美しい真珠よ。
貴方だってこんな私の所ではなく、本来の持ち主の所へ帰りたいでしょう?
ドフラミンゴが出会った両替商の女か・・・
もしくは、それ以前の持ち主の元へ・・・
クレイオがそっとネックレスに触れた、その時だった。