第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
クレイオが「スートの間」から出て行った後、ドフラミンゴはしばらく額に手を当てながらコロシアムの様子が流れているモニターを見つめていた。
そこで戦っている“ルーシー”やレベッカに何を思ったのだろう。
しばらく口を閉ざしていたが、ふと柱に繋いだままのリク王をチラリと見ると、いつものように笑みを浮かべる。
「ドフラミンゴ」
彼の名を呼んだのはリク王ではなく、ハートの席に座らされていたローだった。
「さっきの女がつけていた真珠の首飾り・・・」
その時のローには、ある記憶が蘇っていた。
それは彼の身体に刺青を施した、女彫師の言葉。
『私達はここである奴隷と出会った。とても美しい人だったけれど、悲しい瞳をしていた・・・すると父は、奴隷の証である“烙印”をつぶすように、その人が望んだヒマワリの絵を上から彫ったの』
『その人はとても喜んで・・・お礼に世界で一番美しい真珠をくれた』
数年後、その彫り師親子が罪に問われて海軍に捕まりそうになっていたところを、奴隷からもらった真珠と引き換えに助けたのが他でもないドフラミンゴだ。
そして先ほど、ドフラミンゴはクレイオに対してこう叫んでいた。
“人間でもねェ、たかが奴隷の分際で”と・・・
「“奴隷”にしちゃあ、随分と高価そうなものだったな・・・」
「アァ? だからどうした」
「いや・・・ただ、その真珠の“出どころ”が気になっただけだ・・・」
美しい奴隷・・・
美しい真珠・・・
そして、ドレスローザの中心にある丘で咲き誇る美しいヒマワリ・・・
ドフラミンゴがあれほど感情を剥き出しにするあの女の存在は、いやがおうにも彫り師の言葉を思い起こさせる。
しかし、ローにはそれ以上確かめる術がなく、ドフラミンゴもまた、クレイオに関しては一切話さないといった雰囲気を漂わせていた。
「・・・・・・・・・・・・」
何より、上半身に大きく彫ったこの刺青と同様、ドフラミンゴには決して踏みにじられたくないもの・・・
それが、彫り師との思い出だ。
だからこれ以上はドフラミンゴと会話をするべきではない。
外壁塔正面入口の護衛からの、“麦わらのルフィ”が侵入してきたという報告と同時に、ローは静かに目を閉じた。