第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「このおれを・・・ローが倒すだと・・・?」
ドフラミンゴは明らかに苛立っていた。
つかつかとクレイオに歩み寄ると、右頬を強く引っ叩く。
バシン!!
その衝撃は、クレイオの身体を軽く1メートルは吹き飛ばした。
「たとえ“仮定”の話だとしても、おれにとってこれほど屈辱的なことはねェ!!」
「・・・・・・・・・」
容赦のない平手打ちに、口の中にジワリと血の味が広がる。
殴られた場所を手で押さえても、強い痛みのせいでその感覚がなかった。
「この部屋から今すぐ出ていけ、クレイオ!! 全てが片付くまで、部屋にいろ」
「ドフラミンゴ・・・」
自分がローに負けるかもしれないという口ぶりもそうだが、何よりもクレイオがローの胸に触れていたことが気に入らない。
ドフラミンゴは再びクレイオに歩み寄ると、今度はその胸元を掴んで入り口の方へ放り投げた。
「ッああ!!」
床に叩きつけられた瞬間、下着が露わになるほど深く破れてしまった襟元から真珠の首飾りが飛び出る。
その白くて清楚な輝きを見たローの瞳が変わった。
「・・・私は今日・・・コロシアムでルーシーという剣闘士を見て思った・・・」
「ルーシー?」
「この国には今・・・貴方の脅威となり得る人間が、トラファルガー・ローの他にもいる・・・! 彼は人を殺さずして大勢の人間を味方につけていた・・・」
恐怖でしか人を支配できない、貴方とは違って。
「トラファルガー・ローはここで死ぬことになっても・・・ルーシーのような人間がいつか必ず、貴方の前に立ちはだかる・・・!!」
その時、私にできるのは貴方と一緒に滅びることだけ。
『もし、ドフラミンゴとルーシーが決闘することになったら・・・私は応援する人を間違えてしまうかもしれないわね』
さっきコロシアムでそう言ったのは・・・
自分が滅びると分かっていても、ルーシーを応援してしまうかもしれない、そう思ったから。
それだけルーシーには人を惹きつける力がある。
そして・・・人にこう信じさせる力がある。
───ルーシーが導く結果ならば、それが“破滅”であっても人々は笑顔で受け入れられるのではないか。