第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
写真では見たことがあったが、実際のトラファルガー・ローはクレイオの持つイメージとは少し違っていた。
深手を負って気を失っているせいもあるが、細い輪郭と落ちくぼんだ眼窩は悲壮感を漂わせている。
それは彼がきっと、長い年月の間、命を懸けた重い覚悟を背負っていたからなのかもしれない。
「貴方が・・・トラファルガー・ロー・・・・・・」
“死の外科医”の異名を持つ彼は、ドフラミンゴに七武海脱退を要求し、ドレスローザから失脚させようとした。
ドフラミンゴははっきりと口に出したことは無かったが、心のどこかでローが“部下”として自分の目の前に現れることを期待していたに違いない。
あれだけ殺したがっていたはずのに、一思いにトドメを刺すことはせず、いつかは座らせたいと思っていた椅子に繋ぎとめていることからもそれは伺える。
クレイオはローの額から滲み出ている血液を、そっと指先で拭った。
その感触が彼を目覚めさせたのか、瀕死だと思っていたローの目がゆっくりと開く。
「・・・誰だ、お前は」
ローは眉間にシワを寄せながらクレイオをジッと見つめた。
意識を取り戻したのは、先ほどこの部屋でドフラミンゴと藤虎が衝突した時。
藤虎が出て行った後、ドフラミンゴも電伝虫を持って部屋をあとにしてからずっと逃げ出す機会を伺っていたが、海楼石の手錠のせいでどうすることもできずにいた。
そこへ来た見知らぬ女に警戒心を隠さない。
「私が誰かなんて、貴方にとってはどうでもいいことでしょ」
「・・・・・・・・・・・・」
不気味な女だ、とローは思った。
年齢はモネと同じぐらいだが、今まで見てきたどの女性を思い返しても彼女ほど美しい女はいない。
だが、世界一の美女と謳われる海賊女帝ボア・ハンコックと対面した時と同様、美しいことは認めるが一切の魅力を感じなかった。
それは、ガラス細工のように繊細で端麗でありながらも、彼女にはまるで主体性を感じられないからなのかもしれない。