第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
───“平和”を知らない子どもと、“戦争”を知らない子どもとの価値観は違う。
そう言い切ることができる数少ない人間の一人が、ドフラミンゴだ。
天竜人として生まれ、少年時代は“神”として何不自由ない生活を送った。
だがある日、自分の意思とは関係なしに下界へ堕ち、“人間”として生きることを強いられる。
そこで目にしたのは、人間の神に対する憎悪だった。
憎悪が与えるのは恐怖。
恐怖から生まれるのは残酷。
テーブル一杯に溢れた御馳走はどこにもなく、腐った生ゴミを食べて命を繋いだ。
毎晩ふかふかのベッドで眠るまで頭を撫でていてくれた母は、つぎはぎだらけの不潔なベッドで息絶えた。
かつては自分達を崇めていたはずの人間に、目隠しをされ磔にされた。
天国と地獄。
その両方を経験したからこそ、平和しか知らない子どもと、戦争しか知らない子どもの価値観が違うことを肌で感じることができる。
そんなドフラミンゴの目に、クレイオはどのように映っていたのだろう。
“この出会いを喜べ”
平和も、戦争も、何も知ることができないよう、ドフラミンゴはクレイオをカゴの中に閉じ込めた。
もしかしたらそれは・・・
彼にとって、平和も、戦争も、破壊の対象だからなのかもしれない。
かつてドフラミンゴは一人の少年を“家族”として迎え入れた。
珀鉛病という難病に侵され、あと3年の命しかないという少年だった。
それを知っていながら、彼は少年に向かってこう言った。
“おれはお前を・・・10年後のおれの右腕として鍛え上げてやる!!!”
悪魔が少年に与えたのは、未来への希望にすら思えるような言葉だった。
“全部壊したい”
そう言いながら海賊団に入れてくれと、全身に手榴弾を巻き付けて現れた少年は当時10歳。
奇しくも・・・ドフラミンゴが父親を殺し、“悪”としての道を歩み始めたのもその年齢だった。
悪魔が与えるのは、果たして絶望だけだろうか。
ドフラミンゴがクレイオと出会ってから数年。
世界の全てを破壊の対象とする“天夜叉”は、その世界からクレイオを隔離するかのようにドレスローザの宮殿に閉じ込めていた。