第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
沈みゆく帆船。
離れていく救命ボート。
甲板に広がる血の海。
クレイオは一言も発することができず、ただその場に座り込んだ。
脳裏によぎったのは・・・
ようやく“終わり”がきた、ということ。
短い人生だったと、儚く思うことはなかった。
この20年間、1秒が永遠のように思えてきた。
このまま船と一緒に海底へ沈むというなら、その運命を受け入れよう。
これまでもずっと抗わずにきたのだから。
だが、その運命の歯車を壊したのは他でもない、ピンク色のコートを羽織った悪魔だった。
「───このまま死ぬつもりか、女」
ドフラミンゴがクレイオを見下ろしながら口の端を上げる。
「私は運命を受け入れているだけです。ここで死ぬのが定めなら、それを受け入れるだけ」
「・・・・・・・・・・・・」
胸元が大きく開いた、踊り子のような衣装を身に纏っているクレイオ。
後ろは尾てい骨まで露わになっているそのドレスは、当然のことながら奴隷の証である烙印を隠していない。
「ここで殺すには惜しい女だ」
ドフラミンゴはクレイオの前に跪くと、指先で顎を持ち上げ強制的に顔を自分の方に向かせた。
「名前は?」
「・・・クレイオ・・・でございます」
この美しさで奴隷ならば、彼女が今までどのような扱いを受けてきたかは容易に想像ができる。
幼少期とはいえ、自分もかつてマリージョアに住んでいたのだから。
傾いていく船の上で、ドフラミンゴはクレイオの頬を撫でながら微笑んだ。
「そうか、クレイオ。この出会いを喜べ」
運命を受け入れるというのなら、この先、おれが与える運命も拒絶するな。
「お前は今、この瞬間からおれの玩具だ」
その瞬間、ドフラミンゴはクレイオを天から地へと落とした。