第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「さて・・・」
ドフラミンゴが右手の人差し指をクイッと動かすと、船に備え付けられていた救命ボートが一艘浮かび上がり、海にボチャンと落ちる。
「あの救命ボートで近くの島を目指せ。乗れるのは、せいぜい5人ってところだがな」
「お前ッ! わちしをあんな小さなボートに乗せる気かえ?!」
天竜人にとっては、救命ボートに乗せられること自体が屈辱なのだろう。
「なんだ、不満なのか?」
「わちしの命を守ることが条件なのだから、お前の船でわちしをマリージョアまで送れ!!」
「勘違いするな。おれはお前がこの海でのたれ死のうが構わねェ。言った通り、七武海になる駒は他にもあるんだからな」
ここで殺されないだけ、ありがたく思え。
そう言いたいのだろうか。
「まだ50人ほど生きているな・・・ここから5人に絞るのは難しいだろう。おれが手伝ってやる」
ドフラミンゴの顔に邪悪な笑みが浮かんだかと思うと、天竜人とクレイオを囲んでいた海兵達の身体から突然、大量の血が噴き出した。
「ぎゃあああ!!!」
何もないのに、まるで鋭い刃物で切られたように皮膚と肉が裂けている。
彼の能力は人を操ったり縛り付けたりするだけではないのか・・・?!
クレイオは恐々と海賊を見上げた。
「フッフッフッ・・・これで船に乗せられるだけの人数に絞れたか?」
甲板の上に立っているのは、天竜人とクレイオ。
そして側近一人と海兵四人。
それ以外は血の海の上に転がった屍と化していた。
「ここらの海域は天候が変わりやすい。早く行かねェと、島に辿り着く前に嵐が来るぞ」
「ひ・・・ひぃ!!」
ドフラミンゴの言葉で、天竜人は我先に救命ボートへ飛び降りた。
「な、何をしてる、お前達!! 早くこの船を出せ!!」
「あの、クレイオはどうしますか?」
「そんな役立たずは、放っておけ!! わちしの命を守れもしない、ただの傀儡だえ!!」
沈みゆく船にクレイオを残し、自分だけ救命ボートで逃げようというのか。
自らの我儘で生み出した彼女を“作品”と呼び、好きなだけ嬲ったあげくに、命を見捨てようというのか。
だがそれが、天竜人という神に許された特権だった。