第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
マストが折れ、帆がバタバタと音をたてながら落ちてくる。
その衝撃は木製の床板を容易く貫通し、船体が大きく傾いた。
「やめろ、船を沈没させる気かえ?! て、天竜人に戻りたいのなら、わちしから掛け合ってやるえ!!」
「天竜人に戻りたいかって・・・? フッフッ・・・バカ言うんじゃねェよ。このおれにお前らみてェな肥えた豚共と仲良くしろというのか?」
その時、海兵の一人がドフラミンゴに向かって発砲した。
だがその弾丸が届く前に、海兵は床下から突然“浮かび上がって”きた赤ん坊のような恰好の男に両足を掴まれる。
すると、今度は15歳ぐらいの少女が海兵のこめかみに銃を突きつけた。
銃? いや違う。
“銃”のように変形した手だ。
「へ・・・?」
パァン!
海兵の頭から血が飛び出し、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
少女はそれが当たり前の光景とばかりに眉一つ動かさず、今度は左手を剣に変形させて天竜人の護衛に飛びかかった。
そして足を掴んでいた男もまた、まるでプールのように船の上を泳ぎ回り、手当たり次第に海兵を倒していった。
何が・・・起きているの・・・?
精鋭であるはずの海兵達がみるみるうちに倒されていく。
ピンク色のコートを肩掛けにした大男は、高見の見物をしているだけだ。
彼に向かって発砲した弾丸は一発も届かず、逆にこちらの護衛が倒れていく。
特攻してきた三人以外にも、海賊船には異形の者達が笑いながらこちらを見ている。
天竜人に手を出す者はいないと思っていた。
その常識が今、覆ろうとしている。
「ドンキホーテ!! 貴様、わちしにこんなことをして、ただで済むと思うな!!」
「フッフッフッ・・・我が身を心配するのはおれじゃなく、テメェの方だ」
大きな口から肉厚の長い舌を出し、唇を舐め回す悪魔。
マリオネットを操るように右手の五指を動かした途端、天竜人の周りを囲んでいた海兵達は、見えない鎖に縛り付けられたかのように身動きがとれなくなっていた。