第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
天竜人の乗る帆船は、50門以上の大砲を搭載した戦列艦。
加えて、大佐クラスの海兵が100名控えている。
七武海や四皇が現れない限り、戦力は申し分ないはず。
そう高を括っていたのは事実だ。
しかし、背後から突如として現れた海賊船に、顔色を一番変えたのは天竜人だった。
「あれは・・・」
先ほど殺した従者の死体が脳裏をよぎる。
未確認情報だということを差し引いても何故、従者は輸送船を襲った犯人について、言葉を濁していたのだろうか。
そもそも何故、“天上金を奪う”という気狂じみた行為を、その海賊は堂々と行えたのか。
天竜人の船の後にぴったりとついている海賊船を見た瞬間、全てが“糸”で結ばれたかのようにぴったりと繋がる。
「まさか・・・ドンキホーテか・・・」
天竜人は身体を震わせながら、聞き慣れぬ名を口にした。
クレイオも船尾の方に目を向けると、そこにいたのは想像を遥かに超えた、大きな海賊船。
ピンク色のド派手な帆船に、船首像は鋭い目つきをしたフラミンゴ。
メインマストには「DONQUIXOTE」の文字と、左目が潰れた海賊マーク。
応戦する海軍の大砲にびくともせず、さらに速度を上げて追いかけてくる。
「まさか、あのイカれた一族の生き残りが・・・わちしの船を襲おうというのかえ・・・?!」
「一族・・・?」
ドンキホーテという名は、そこまで天竜人を狼狽えさせるものなのか?
クレイオが海賊船に向かって目をこらすと、船首の所で大きな男が仁王立ちしているのが見えた。
距離があっても分かる。
身長3メートルあろうかという大男は、逆立てた金髪と奇妙な形をしたサングラスを光らせていた。
───怖い!!
頭で状況を理解するよりも先に、恐怖が神経の末端まで駆け巡る。
天竜人も残忍だけど、彼はそれ以上に残忍なオーラを漂わせながら笑っていた。
あれが海賊。
あれが世界の秩序を乱す者。
「天竜人様方は、船室に入っていてください!!」
“悪魔の実”の能力者でもある海軍本部大佐が、天竜人とクレイオの背中を押し、船室の中に隠れているよう促した。
だが、一瞬前に悪夢が天竜人を襲う。
夢かうつつか・・・
ピンク色の羽毛コートを着た海賊は、翼もないのにまるで鳥のごとく空に舞い上がった。