第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「・・・・・・・・・・・・」
重苦しい空気が流れる部屋。
カーテンの隙間から差し込む一筋の真っ赤な光が、ドフラミンゴの頬を差していた。
ああ、なんと残忍な笑みを浮かべているのだろうか。
彼は今、とても機嫌が悪い。
そのことはグラディウスも察しているようだ。
「どうした? おれが許すと言ってるんだ、遠慮するこたァねェ」
「若・・・」
「勃たねェってなら、おれが“勃たせて”やるまでだ」
ドフラミンゴが右手をグラディウスに向かって突き出した、その時だった。
「ドフラミンゴ」
王と部下の間の視界を遮るように、クレイオの髪が靡く。
次の瞬間、ドフラミンゴの唇に真紅の口紅をひいた唇が重なった。
「───グラディウスを殺す気?」
ギシリと椅子の軋む音。
クレイオはドフラミンゴの太ももの上にまたがっていた。
サングラスをずらさないようにしながら両手で頬を包むと、もう一度、真一文字に結ばれた唇にキスをする。
「貴方は“オモチャ”を人に貸したあとで、その人を殺してしまうでしょう」
「・・・・・・・・・・・・」
「こんな“オモチャ”一つのために、大切な幹部を手にかけるの?」
───それは数カ月前のこと。
クレイオに恋心を抱いた、一人の下っ端の部下がいた。
ある日、彼はボスにバレないよう、クレイオにバラの花束を贈った。
それは彼が王の愛妾に愛を伝える、精一杯の方法だった。
その事を知ったドフラミンゴは、部下にクレイオとのセックスを許した。
“オモチャは独り占めするもんじゃねェからな”
条件はたった一つ。
ドフラミンゴの目の前で行為するということ。
王への忠誠心よりも恋心が勝った部下は、クレイオを抱いた。
王はそんな二人をベッドそばの椅子に深く腰掛けながら眺めていた。
想いをぶつけるように激しく腰を振り、男があと少しで達しようとした時。
突然、クレイオに覆いかぶさっていた彼の首から、鮮血が四方に向かって勢いよく飛び散った。