第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「───おいおい、あまりグラディウスをからかうんじゃねェよ」
一瞬、大きな鳥が窓に舞い降りたのかと、その場にいた誰もが思った。
しかしそれは鳥などではなく、この国の王。
等身大の肖像画に挟まれた窓枠にしゃがみ、クレイオとグラディウスを見下ろしながら笑っている。
「若・・・! いつお帰りに?!」
「たった今だ。バッファロー達は後から来る」
久しぶりに見るドフラミンゴは、いつにも増して背筋が凍るようなオーラを漂わせていた。
圧倒的な存在感がそうさせるのか、それとも笑顔の裏に狂気じみた感情を隠しているからか。
グラディウスは、ドフラミンゴのサングラスが自分の胸に触れているクレイオの手を映していることに気づくと、慌ててその手をひっぱたいた。
「おれから離れろ!」
「どうして? 私はただ、貴方の望み通りになろうとしていただけなのに」
すると、バサバサと鳥が羽ばたく音が広間に響いた。
次の瞬間、クレイオの真後ろにドフラミンゴが降り立つ。
「クレイオ、おれはグラディウスをからかうなと言ったばかりだ」
「・・・!!」
突然、クレイオの手が見えない“糸”に引っ張られるかのように上へ持ち上がり、ドフラミンゴの顔の前で止まった。
「たった2週間・・・おれが留守にしていただけで、お前は所かまわず男を誘惑するほど欲求不満になっちまったのか?」
そう言って笑いながら、クレイオの手の甲にズルリと舌を這わす。
「若、誤解です! おれ達は若を裏切るようなことは何もしてません!」
「ああ、分かってるさ。お前も、クレイオも、おれを裏切らない」
“だが・・・”と言って、二ヤリと笑う。
クレイオの手首に巻き付いているピアノ線のような硬い透明の糸が、容赦なく皮膚を締め付けてきた。
「クレイオはお前のことが気に入っているようだ。だから、お前もおれの部屋に来い。悪ィが、少し付き合ってもらう」
ドフラミンゴはクレイオを抱き寄せると、目だけはグラディウスに向けながらクレイオの髪にキスをした。