第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
この城には、クレイオの話し相手になってくれるような人間はいない。
もう少しだけこのブリキ人形と話していたかったが、それは叶わぬことだった。
「お前達、さっきから何をコソコソと話している」
ずっと入り口のところで監視していたグラディウスが、痺れを切らしたように声をかけてきた。
彼にとって、ここでクレイオが掃除を手伝い始めたのは想定外。
大人しく部屋で本でも読んでいてくれたら、鍵をかけておくだけで済んだというのに、こう城の中を歩き回られては見張っているのも一苦労だ。
ラオGやセニョール・ピンクが監視の時は部屋から一歩も出ようとしないのに、自分の時に限って出歩くのは、ナメられている証拠か。
「もう気が済んだろう。さっさと部屋に戻れ」
「どうして? 私は城から出るなと言われているだけで、部屋から出るなとは言われていないわ」
「おれは屁理屈をこねる女が大嫌いだ」
苛立つグラディウスから、ビリビリとした緊張感が走る。
だが、クレイオの方は特に気にした様子もなく、むしろ微笑んでいた。
「残念ね、私は貴方のことが嫌いではないというのに」
その言い草が気に入らなかったのか。
グラディウスのシルクハットが風船のように膨張し始める。
「グ・・・グラディウス様・・・」
ブリキ人形が怯えた声を出した。
“パムパムの実”の能力者であるグラディウスは、爆弾のように物体を破裂させることができる。
いくら広い「肖像画の間」といえど、ここで爆発されたらオモチャなどバラバラに壊れてしまうだろう。
それに気が付いたクレイオは笑みを消すと、真顔でグラディウスに詰め寄った。
「グラディウス」
太陽の光を滅多に浴びない白い手が、黒いコートを着ているグラディウスの胸に触れる。
「破裂するならここじゃなく別の場所でして。他の誰も傷つくことのない所」
「・・・・・・・・・・・・」
「私は逃げないから」
ブリキ人形を守るためではない。
クレイオはむしろ、破裂してくれることを望んでいるかのような瞳をしていた。
ドクンッ、とグラディウスの心臓が大きく膨らんだ、その時。