第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「クレイオ、こっちに来い」
「・・・・・・・・・・・・」
強い命令口調ではなく、ただ手招きをしているだけなのに、身体が勝手に窓の方へ動く。
他人を意のままに操る、“イトイトの実”の能力を使われたのか。
クレイオが傍にくると、ドフラミンゴは身体を抱き上げて右膝の上に座らせた。
「・・・落ちそう」
ドフラミンゴの背中の向こうはただの夜空。
遥か下には真っ白な石畳が並べられている。
「───おれと一緒に堕ちるか?」
冗談にしては、あまりに冷たい声だった。
クレイオの肩を抱きすくめ、香りを嗅ぐように髪に鼻を埋める。
「国王が夜伽と一緒に転落死・・・? 明日の朝刊のトップニュースになるわね」
「フッフッフッ・・・そいつァ、ゴメンだな」
笑いながら耳の後ろにキスをすると、月を背にしているドフラミンゴは並んだ四つの椅子の一つに目を向けた。
スペード、ダイヤ、ハート、クローバー。
真夜中でも決して外さないサングラスのせいで、どのイスを見つめているのか分からない。
「ベビー5をファミリーに迎えた時・・・あいつはおれの膝にすらとどかねェほどのガキだった」
口減らしのために母親からも捨てられた幼い少女。
初めて与えた仕事は、死体から財布を奪ってくることだった。
“わたしはやくにたつ? ひつようある?”
小さな手で死臭が染みついた財布をドフラミンゴに渡してきた少女の、嬉しそうな顔を今も鮮明に覚えている。
「まさかゴミ共に“女”にされちまうとはな」
その口ぶりは、まるで大事な妹の純潔を奪われた兄のように、怒りと寂しさが入り混じっていた。
もしここに他の幹部がいたら、ドフラミンゴはいつものようにただ余裕の笑みを浮かべていただけだろう。
だが、ここにいるのは、ドンキホーテファミリーに入らず、ただ彼の欲望を受け入れる女だけ。
そんなクレイオの前だからこそ曝け出せる本心だったのかもしれない。