第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
まもなく深夜3時を指そうとしている、時計の針。
ベッドに眠るベビー5は静かに寝息を立てていた。
その寝顔を見るに、今夜の出来事は“悪夢”ではなく、“誰かの役にたてた”満足感として残っているようだ。
あとは、ベビー5の身体の中に命が宿っていないことを祈るだけ・・・
長い廊下を歩き、階段を上った先にある部屋に辿り着いたクレイオは、俯きながら両開きのドアに手をかけた。
天井まで届こうかという大きな扉の向こうは、最高幹部が座る椅子が並ぶ『スートの間』。
ここに入ることが許されているのは、ファミリーの中でも一握りの人間だ。
クレイオは深呼吸を一つすると、ドアを引き開けた。
キィー・・・
静まり返った廊下に、ドアの軋む音が響く。
同時に、真夏だというのにヒンヤリとした冷たい空気が流れ出てきた。
「・・・ドフラミンゴ」
名前を呼ばれた男は、トランプのマークを模した四つの椅子を見下ろすように正面の窓枠に座っていた。
「“おれの部屋に来い”と言っておきながら、スートの間にいるのは酷いんじゃない? 城中を探してしまったわ」
「・・・・・・・・・・・・」
城中を探してしまった、というのは嘘だ。
王の寝室に姿がないと分かった時から、クレイオの足はこのスートの間に向かっていた。
「ベビー5の様子は?」
「あの子はとても強い子よ、ゆっくり寝ているわ。明日にはケロッとしているんじゃない」
「・・・ならいい」
だが、ドフラミンゴの顔に安堵した様子はない。
ここは2階だというのに開け放した窓枠の上で胡坐をかき、重い空気を漂わせながら、ジッと四つの椅子を見つめていた。