第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
その間、ドフラミンゴはベビー5の部屋の入口に立ち、その様子を見守っていた。
口を真一文字に閉じ、瞳をサングラスで隠している彼が今、何を考えているのか分からない。
傍に近寄ることすら怖かったが、なるべく恐怖を見せないようにしながら歩み寄った。
「お湯をもっと取ってくるわ・・・ベビー5の身体を拭いてあげなきゃ」
「・・・・・・・・・・・・」
「あと・・・貴方の顔も拭いてあげなければ」
頬に飛び散った、ドス黒い血。
純情なベビー5を犯した男達の汚い血液で、貴方の顔をいつまでも汚れたままにしておくわけにはいかない。
クレイオの手がドフラミンゴの頬に触れようとした、その時。
「・・・・・・ッ!!」
ドフラミンゴの大きな手が突然、クレイオの髪を鷲掴みにした。
容赦なく引っ張られて上を向かせられると、成すすべなく唇を塞がれる。
「んんっ・・・」
喰らいつくようなキスが、そのまま彼の怒りを表しているようだ。
あと50人ほど殺さなければおさまらない感情を、クレイオに口づけることで帳消しにしようとしているのだろうか。
長い舌が口内を犯し、息をつく間も与えてもらえない。
「・・・ッ・・・」
だが、大きな声を出してしまったらベビー5に聞こえてしまう。
必至で声を噛み殺しながら、ドフラミンゴの気が済むのを待った。
数十秒。
その嵐がようやく過ぎ去る。
「・・・・・・・・・・・・」
ドフラミンゴはクレイオの唇を解放すると、もう一度グルリと舌を這わせ、かろうじて残っていた口紅を舐めとった。
さらに、強く引っ張り過ぎて抜けてしまった数本の長い髪を口に含み、そのまま躊躇なく飲み込む。
「・・・ベビー5が落ち着いたら、すぐにおれの部屋に来い」
それは死刑宣告も同じだった。
言われた方の人間は、それを拒否する力を持たない。
「・・・・・・・・・・・・」
禍々しいオーラを漂わせ、暗い廊下を静かに歩いていくドフラミンゴ。
クレイオは寒さで震えるように両手で自分の身体を抱えると、壁にもたれるようにしながらその背中を見つめた。