第6章 真珠を量る女(ロー)
出発の日の朝は、ここに戻ってきた時とは思えないほどの快晴だった。
「ようやく頂上戦争の影響が消えつつあるみたいね」
28番GRの海岸に停まったポーラータング号と海原を交互に見つめながら、クレイオは少し寂しそうに微笑んだ。
すると、その隣に立っていたローがクレイオの顔を覗き込んで眉をひそめる。
「お前、すごいクマだぞ・・・昨日、ムチャするからだ」
「クマって・・・ローには言われたくないけど・・・」
徹夜で刺青を彫っていたんだ、そりゃ疲労も蓄積する。
最後の一人、ペンギンの刺青を彫り終えた後は、2時間ほど死んだように眠っていた。
「それより、胸の傷口の方はどう?」
「今、一番痒い時だ。さっきから掻きむしりたくてたまらねェ」
「シャチ君達にも言ったけど、絶対に掻いちゃだめだからね。べポ君が危ないから、目を離さないで」
「しかしまさか、あいつらも刺青を彫ったとはな・・・」
しかも、“完成するまではキャプテンに見ーせない!”と言っていたし・・・と、不機嫌そうに口をとがらせている。
もしかして、仲間はずれにされたかと思って拗ねているのだろうか。
クレイオはクスクスと笑いながらローの手を握った。
「刺青はもともと、人に見せるために彫るものじゃない。人に見せるために覚悟を決めるわけじゃないのと同じ」
「・・・ああ、そうだな」
二人の目の前に広がる、青いグランドライン。
ローはこれからどこへ向かうのだろう。
「お前も、おれが戻るまで誰にも刺青を見せるんじゃねェぞ」
洋服に隠れる所にしか彫っていない、クレイオの刺青。
それを見ることが許されるのはおれだけだ。
そんな不敵な笑みを見せる。
「だったら・・・ちゃんと、“死なないで”戻ってきてよ」
この海には海賊に限らず、貴方よりも強い人間などたくさんいる。
ローは潮風に飛ばされないよう帽子を押さえながら微笑んだ。
「ああ・・・何より、溺れそうになっても、心優しい人魚が必ず助けに来てくれるもんな」
方向が分からず遭難しそうになっても、その人魚が行き先を指し示してくれるだろう。
今はそう信じている。