第6章 真珠を量る女(ロー)
「ロー・・・」
ローに抱きしめられているクレイオの口元に笑みが浮かんだ。
「もう少し頭の良さそうな男だと思ったけれど・・・私の“鑑定違い”かしら」
それは、二人が出会った日。
5代目ホリヨシの元に連れて行かなければ斬ると言ったローに、クレイオが言った言葉だった。
だがあの時とは違い、クレイオはローを蔑むどころか、心から愛おしそうに見つめている。
「もう忘れた? ホリヨシが墨を入れるのは、“皮膚”だけじゃないということを・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「私が墨を入れるのは、貴方の覚悟・・・すなわち、“心”よ」
ローの背中に彫られた、海賊旗。
一針一針、肌に突き刺しながら、クレイオは自分の覚悟も彼の心に残していった。
「貴方の中に私のものが何一つないと言ったけれど・・・私は自分の命をちゃんと貴方の中に託した」
「お前の命・・・?」
「ホリヨシは常に切腹をする覚悟で刺青を彫る。たとえ死んでも、その信念は刺青を入れた人間の中で生き続けると信じているから」
“その心は間違いなく、ホリヨシの信念に値する”
クレイオはそう言って、ローに刺青を彫ることを受諾した。
自分の命を託すのだから、それだけの相手でなければいけない。
“貴方の身体に彫った刺青を・・・どうか大切にして欲しい”
“それだけ約束してくれたら・・・私は死を受け入れよう”
クレイオは苦しそうに顔を歪めているローを見上げ、ニコリと笑った。
「私に刺青を彫らせてくれてありがとう、ロー」
たとえ、私と貴方は出会うべきでなかったとしても───
「私を想って海に飛び込んでくれてありがとう、ロー」
私にとって貴方は、とても大事な人。
その一部になれたことを嬉しく思う。
「刺青は一生消えない・・・だから、私の手で入れた墨は、永遠に貴方とともにあることを忘れないで」
この先、貴方がどのような道を歩んでもいい。
それが若様を殺すことになったとしてもいい。
私の命は、永遠に貴方とともにある。