第6章 真珠を量る女(ロー)
すると、ソファーに深く腰掛けていたローが急に立ち上がった。
「クレイオ、眩暈やフラつきはねェか?」
「ないけれど・・・」
「なら、おれの部屋に来い。シャチ、クレイオの点滴と心電図モニターの電極を外せ」
余所余所しい態度を取るローと二人きりになるのは、正直言って気が重い。
だが、ここはポーラータング号の船内。
船長の言葉は絶対だった。
「ま、待って」
腕から点滴の針を抜き、絆創膏を貼ってもらってから、スタスタと部屋を出ていくローの後を追う。
初めて見る潜水艦は、とにかく暗かった。
帆船と違い全てが重工な鋼鉄製で、船長の性格からか床にはチリ一つ落ちていない。
しかし、空気はどこか澱み、息苦しさすら感じた。
「メーターがついている機械には触ってくれるなよ。色々と複雑なんだ」
「分かった・・・」
操縦室、調理場、便所、寝室。
航海に必要な様々な部屋を横切るが、先ほどまでいたオペ室が一番大きく、造りもしっかりしているようだ。
それは外科医であるローのこだわりだったのだろうか。
船尾にあたるところまでくると、他とは一線を画すドアがあった。
「ここがおれの部屋だ。少々気味悪いものもあるが、気にするな」
「気味悪いもの・・・?」
重たいドアを開くと、高温多湿な潜水艦の中とは思えないほどヒンヤリとした空気が流れ出てくる。
中はさほど広くはない。
しかし、壁一面に取り付けられた棚の上に並べられているのは、薬品に漬けられた“死骸”。
小動物はもちろん、人体の一部らしきものまである。
クレイオはその中のひとつに目を奪われた。
「・・・これ・・・人の心臓・・・?」
人間の体内ではないというのに、ドクンドクンと脈打っている。
そういえば、クレイオの心臓を抜き取った時も、同じように脈打っていた。