第6章 真珠を量る女(ロー)
「飛び込む瞬間にチラッと見えたんだけど、その人の背中には大きな刺青が彫ってあった。だから、もしかしたらクレイオさんの“知り合い”なんじゃないかって・・・」
「刺青・・・? それはもしかして、花の絵じゃなかった?」
すると、シャチは“そうそう!”と大きく頷く。
ローもピクリと顔を上げた。
「あれは確かに、ヒマワリの絵だった!!」
嵐の暗い空を照らすような、大輪のヒマワリ。
人魚の背中に鮮やかに咲き誇っていた。
「やっぱり・・・」
クレイオは、嬉しそうに微笑んだ。
「あの時・・・海に突き落とされそうになっても、怖くはなかった。きっと自分は助かる、そんな気がしていた」
それはきっと、“彼女”がそばにいたからだったんだ・・・
「これで“二度目”ね・・・彼女に助けてもらうのは」
「二度目?」
それまで静かに聞いていたローが口を開いた。
“クレイオのことは心配しなくていい、彼女ならもう助けたわ。私の大切な恩人だから”
「おれもその人魚を見たが・・・そいつはお前のことを“恩人”と呼んでいたぞ」
「15年前のことを言うなら、そうかもしれない。けど、私達にとっても彼女は恩人なの」
「15年前・・・?」
聡明なローは、その言葉ですぐにピンときた。
15年前といえば、フィッシャー・タイガーが奴隷を開放するために聖地マリージョアへ乗り込む、2年前のこと。
そしてそれは───
“私達はここである奴隷と出会った。とても美しい人だったけれど、悲しい瞳をしていた・・・すると父は、奴隷の証である“烙印”をつぶすように、その人が望んだヒマワリの絵を上から彫ったの”
「お前と親父がここで出会ったという、“最初の奴隷”って・・・あの人魚のことか?」
「そう。あの時お礼としてくれた真珠があったから、私達は若様に救ってもらうことができた。全てを辿れば、今の私がいるのはあの人のおかげ」
「そうだったのか・・・」
しかし、それでもローには解せない事があった。