第6章 真珠を量る女(ロー)
「ん・・・」
目覚めるとクレイオは、見たこともない機械が所狭しと並んだ部屋に横たわっていた。
おそらく医療器具なのだろう、左腕には点滴の針が刺さり、ベット脇には液体が入った袋が吊り下げられている。
「あ、気がついた?」
ちょうどカルテらしきものを運んできていたシャチが、クレイオに気づいて明るい声を出した。
「待ってな、今キャプテンを呼んでくるから。さっきまでここにいたんだけど、別の部屋で休んでる」
「・・・・・・・・・・・・」
キャプテン・・・?
そうか・・・ここはローの船、ポーラータング号の中なのか。
全身にダルさを感じながら首を右に倒すと、すぐそばに心電図モニターがあった。
これは自分の心臓の動きなのだろうか・・・
さらにメーターがついた機械がずらり並んでいる。
いったい何に使うのか分からないが、おそらく自分の想像を遥かに超えた最新の医療器械なのだろう。
程なくして、人間がやっと一人通れる大きさのドアからローが入ってきた。
「ロー・・・」
珍しく帽子を被っていないローは、無言のままクレイオに近づき目元に親指を添えると、無造作に下まぶたを下げた。
「・・・・・・・・・・・・」
軽い貧血のサインはあるものの、許容範囲内。
眼球の白目部分に黄疸の症状も出ていない。
すると今度はヒンヤリとした手が、首筋に触れた。
脈を測っているのか、15秒ほどそのまま動かずにいる。
「脈拍72・・・体温35.8ってとこか。血圧は・・・少し低いな」
それは単なる偶然だったのだろうか。
バイタルサインを測っていた手が首筋から離れる瞬間、長い人差し指がクレイオの唇に触れた。
それまでの“医者”の手つきとは違い、まるで愛しい人を求めて触れるかのような切ない手つき。
そしてその指からはコーヒーの芳ばしい匂いがほんのりと香った。
眠気覚ましに飲んでいたのだろうか。
「意識ははっきりとあるか?」
「・・・ある」
返事があったことに安心したのか、眉間に深いシワを刻んでいたローの顔がようやく綻んだ。
といっても、しかめっ面であることに変わりはないのだが。