第6章 真珠を量る女(ロー)
“オペオペの実”を食べてから11年。
足先すらつけたことがなかった海水がローを襲う。
水とはこんなにも重く、冷たく、攻撃的なものだっただろうか。
幼い頃は、ラミと一緒によくプールや海へ行ったものだった。
浮き輪に掴まる妹を引っ張って、どこまでも泳いでいっていたのに・・・
ゴボボボボボ・・・
海に嫌われている、悪魔の実の能力者。
ローは全身から力が抜け、息を止めようと腹に力をこめることすらできないでいた。
“考えるよりも先に身体が動くということがあるでしょ”
自分はそういうタイプの人間ではなかったはずだ。
クレイオを助けるために海に飛び込もうなど、正気の沙汰ではない。
ダメだ、もう息が続かねェ───
クレイオ・・・
クレイオ・・・
どこにいる・・・?
目を開けても、見えるのは暗闇だけ。
“死”
その一文字が脳裏をよぎった、その瞬間。
「大丈夫・・・死なせはしないわ」
どこからともなく知らない女の声が聞こえ、柔らかい腕がローの身体を優しく包み込む。
不思議なことに、これまで抵抗することすら許してくれなかった水圧がふと軽くなり、身体が浮き上がり始めた。
一体・・・何が起こっている・・・?
すると、ローの記憶の底に眠っていた言葉がありありと蘇ってくる。
“心配するな。おれはこんな話を知っている!”
コラ・・・さん・・・?
“この海には心優しい人魚がいてな、船乗りが溺れそうになると必ず助けに来てくれるんだ!”
まさか・・・
そんなはずは・・・
あれはコラさんがおれを安心させるために言った、子どもだましじゃなかったのか・・・?