第6章 真珠を量る女(ロー)
ゴォォッ!!!
荒れ狂う海が容赦なくクレイオを飲み込む。
雷にも似た音が鼓膜を突き刺し、腹を鈍器で殴られたかのように呼吸ができなかった。
全方向から押し寄せる水圧に、自分が沈んでいっているのか、浮かんでいっているのかすら分からない。
もがこうにも、クレイオの力で押し戻せるほど波の力は優しくなかった。
「クレイオ!!」
何故、たった一瞬でも彼女から目を離したんだ!
ローは自分の愚かさを責めながら、真っ暗な海を見つめた。
“シャンブルズ”でクレイオの身体と何かを入れ替えようにも、ローの力は悪魔の実によるもの。
海の中にまでは及ばない。
「キャプテン、クレイオさんのことは諦めるしか・・・!!」
ペンギンがそう叫んだのも無理は無かった。
たとえカナヅチでなくても、この嵐の海を泳ぐことは人間には不可能だ。
「・・・・・・・・・・・・」
───諦める・・・?
クレイオの命を・・・?
“貴方の誓い、その身体に彫ってあげる”
世界にたった一人しかいない、ホリヨシの命を・・・?
“もし感染ったら、それが私の寿命だったということ”
珀鉛病と知っても自分を恐れなかった、強い女の命を・・・?
“若様が私の恩人であることに変わりはない・・・!”
ドフラミンゴを“恩人”と呼ぶ、憎むべき相手の命を・・・?
“どうか・・・どうか・・・死なないで”
「諦める・・・わけにいかねェだろうが、クソが!!」
“それだけ約束してくれたら・・・私は死を受け入れよう”
───絶対に死なせねェ!!
ドフラミンゴへの復讐。
コラソンへの恩返し。
仲間と目指した野望。
「キャプテン、何を・・・!!!」
その全てを捨て、ローは荒れ狂う海の中へ飛び込んだ。