第6章 真珠を量る女(ロー)
「シャンブルズ」
聞こえたのは、たったその一言だけ。
気付けばクレイオを押さえつけていた力は無くなり、代わりに先ほどまで宙を浮いていた海賊の一人の生首が背後に落ちる。
「え・・・?」
リーダー格だった男の身体は、瞬間移動をしたかのように、バラバラとなっている仲間達と一緒に嵐の空に浮かんでいた。
「姿が見えねェと思っていたら・・・女の後ろに“隠れて”いたか」
“卑怯な奴だ”と残忍な笑みを浮かべる。
「一人でさみしかっただろ。仲間達と泳いでこいよ」
“DEATH(死)”が彫られた5本の指で遥か沖の方を指すと、海賊達は糸が切れた操り人形のように成す術なく海の渦へと吸い込まれていった。
「ロー・・・」
先ほどはクレイオを殺すために刀を抜くだけで、あれほど苦悩に満ちた顔をしていたのに・・・
たった一瞬の躊躇いも見せなかった・・・
「・・・・・・・・・・・・」
ローは何かを言いたげに口を開きかけたが、クレイオから視線を逸らすように船の方へ目を向け、眉間にシワを寄せる。
「べポ、シャチ、ペンギン!! 仲間を全員、船に集めろ!!」
もう、この島に用はない。
「このまま出航するぞ!!!」
“アイアイ!”と返事をしようとしたべポの表情が変わる。
白熊の優れた嗅覚が、何かを察知したようだ。
「クレイオ、後ろ!!!」
そう叫んだのと、ほぼ同時だった。
ドンッ!!
背中に強い衝撃が走り、クレイオの身体がグラリと前に倒れる。
「クレイオ!!」
ローの声が遠くで聞こえた。
ゆっくりと防波堤から落ちながら視界の端に映ったのは、薄ら笑いを浮かべている男。
ああ・・・あの男の顔は、手配書で見たことがある・・・
「“仲間達”を殺されっぱなしじゃ、こちらの腹の虫も収まらねェ。お前には死んでもらう」
確か賞金5000万ベリーの海賊・・・
そうか、さっき自分を羽交い絞めにしてきたのは“船長”ではなかったのか。
この男はおそらく、部下達を戦わせて、自分は安全な場所でのうのうと見物していたのだろう。
悔しいが、もはやクレイオにはどうすることもできなかった。