第6章 真珠を量る女(ロー)
「お前、両替商の女だな───」
そのダミ声には聞き覚えがあった。
先ほど店にやってきていたリーダー各の男だ。
深手を負っているのか、ヌルリとした血の嫌な感触を背中に感じる。
「少しでも暴れたら殺す」
「・・・・・・・・・・・・」
その口調からして、クレイオを生かしておくつもりはないようだ。
とりあえずは、ローに手玉に取られている仲間達を救うための人質といったところか。
「トラファルガー・ロー!!!」
暴風に混じった海賊の怒鳴り声に、ローの冷徹な顔がこちらを向く。
二つの瞳がクレイオを捉えた瞬間、明らかな怒りの色が浮き上がった。
「おれの仲間達を殺してェなら好きにしろ!!」
そう言いながらジリジリと岸壁の淵までクレイオを追いやっていく。
「だが、お前がおれの仲間を殺せば、こっちもこの女を海に突き落とすだけだ」
つま先からわずか10センチ向こうは海。
嵐のせいで波はうねり狂い、一度落ちたら二度と浮き上がってはこれないだろう。
「・・・愚かな男・・・私に人質としての価値は無い。トラファルガー・ローとは“無関係”なのに」
彼はきっと動かない。
むしろ、自分の刀を女の血で汚さずに済んだと、ホッとすらしているだろう。
お願い・・・
そうじゃないと、足手まといになってしまったことが申し訳なさすぎる・・・
「黙らねぇとこのまま首をへし折るぞ。お前に人質としての価値があろうとなかろうと、おれはどっちでも構わねェ」
ローがクレイオを助けるために、仲間達を開放してくれればよし。
そうでなくても・・・
「仲間が殺されている隙に逃げるだけだ」
なんと卑怯な男なのだろう。
仲間を見捨てて自分は助かろうというのか。
「貴方・・・良い死に方はしない。絶対に!!」
「見苦しい負け惜しみはよせ」
「負け惜しみじゃない。私はドンキホーテ・ドフラミンゴに育てられた鑑定士・・・残念ながら、私の“見立て”は外れないの」
海から来る強風にあおられながら、不思議と恐怖は無かった。
死が怖くない?
・・・違う。
この安心感はまるで・・・・・・
クレイオが空を見上げたその刹那、辺りが青白い光に包まれた。