第6章 真珠を量る女(ロー)
「切腹・・・? 腹を自分で切ったというのか」
「そう。父は自分の死期を悟ると、私が彫った刺青に傷がつくのを恐れて自害した。やせ細って、皮膚がたるむ前に・・・」
いや、もしかしたら病に屈する姿を、我が子に見られたくなかったのかもしれない。
「父は・・・ワノ国の誇り高い侍だった。故郷のことはあまり語りたがらなかったけれど、優れた彫り師として将軍家の人間にも刺青を施していたそうよ」
城に出入りをしていた父は、一人の高貴な女性と恋に落ちた。
身分が違う二人の仲は許されるはずがない。
思いつめた恋人達は、鎖国国家のワノ国では“御法度”とされている出国を試みた。
「父は故郷を捨てる時、ホリヨシの技術も捨てる覚悟だったのかもしれない」
だけど結局、クレイオがそれを引き継いだ。
そして、愛弟子が彫った刺青に傷がつく前に、父は自ら命を絶った。
ワノ国の侍、ホリヨシ、師匠、そして、父親。
全てのプライドが彼をそうさせた。
「ホリヨシの覚悟ってのは・・・凄まじいものだな・・・」
ローはランプの灯りに照らされている5代目の皮膚を見ながら呟いた。
それは、常に“切腹”をするつもりで彫り物をするという、クレイオにも言えること。
「───おれにも譲れねェ覚悟がある」
背中に彫ってもらった刺青はハートの海賊団のシンボル、“笑顔”の髑髏。
「おれは恩人をドフラミンゴに殺された」
ジジッ・・・とランプの中のロウソクが風もないのに揺れる。
「おれは、死ぬはずだった命をその人に救ってもらってから今日まで・・・ドフラミンゴを討つためだけに生きてきた」
だが、お前は奴を“恩人”と呼ぶ。
「教えろ・・・ドフラミンゴはお前に何をした・・・?」
おれはお前に“縁”を感じていた。
かつて奴隷のように死を受け入れるしかなかった自分が出会ったのは、奴隷達の心を解放する技術を持った女。
だからお前に触れたいと・・・口付けたいと・・・抱きたいと思った。