第6章 真珠を量る女(ロー)
「お前の心臓は返しておく」
そう言うなり、クレイオをめがけて心臓を投げた。
見事にはまると、ドクンドクンという鼓動が戻ってくる。
ローは胸を抑えているクレイオを横切り、ドアノブに手をかけた。
「お前ら、行くぞ。船に戻る」
「今出ていってはダメよ! 海軍がまだそこにいる」
「ここも、外も、おれ達にとって“危険”であることには変わりねェ」
何より、ドフラミンゴの息遣いがするこの店に居たくはなかった。
クレイオに罪は無い。
彼女は自分を守るためにウソをついた。
そのことは分かっているが───
“ローを追ってどうする”
もしあの時、コラさんが逃がしてくれなかったら・・・
“おれの為に死ねる様、教育する必要もあるな!!!”
自分はとっくに“破戒の申し子”によって殺されていた。
“もう放っといてやれ!!! あいつは自由だ!!!”
「おれは・・・ドフラミンゴに向けて放たれるはずだった、銃の引鉄を引くために生きている。お前に彫ってもらった刺青も、その覚悟の証だ」
コラさん・・・
「そのお前が、ドフラミンゴを“恩人”と呼ぶとは・・・皮肉だな」
その時、ローはつらそうに瞳を揺らしていた。
そんな表情を見たことがなかったペンギンとシャチが、ピクリと身体を強張らせる。
「刺青の彫り代だ。これでもう、二度とお前と関わることはねェ」
そう言って、無造作に50万ベリーを床に投げ捨てるのを、クレイオはただ黙って見つめることしかできなかった。
ローから返してもらった心臓がとても冷たく感じる。
「ロー・・・私はっ・・・・・・」
しかし、クレイオの声はもうローには届かなかった。
店のドアが開き、まだ土埃が立ち込めている外に出て行ってしまう。
「キャプテン!!」
慌てて仲間達があとを追いかけていったが、クレイオはそうすることができなかった。
ローが最後に見せた瞳。
それは、ドフラミンゴと彼に関わる全ての人間に対する“憎しみ”だったから。
「ロー・・・」
バタンとドアが閉じ、暗闇とともに静寂が襲う。
クレイオは両腕で自分を抱え、噛みあうことのない運命の歯車に、ただ項垂れるしかなかった。