第6章 真珠を量る女(ロー)
それから一時間あまり。
シャボンディ諸島のあちこちで、海軍と海賊が衝突する音が響いていた。
天竜人を殴った主犯格ではない海賊までも“とばっちり”で次々と連行されていく中、ハートの海賊団は無事クレイオの両替商に辿り着き、“嵐”が通り過ぎるのをジッと待っていた。
「どうやら海軍大将は引き上げたようだ。麦わらやキッドの消息は分からない」
偵察から戻ってきたペンギンが、土埃を払いながら顔をしかめた。
いくら新世界を目指す海賊が多く集まる島とはいえ、これほどの騒ぎは13年前にフィッシャー・タイガーが聖地マリージョアから奴隷を開放した時以来のこと。
「クレイオさん、船長は?」
「奥でシャチ君や負傷した人の手当てをしてる」
クレイオ達を確実に逃がすため、ジャンバールとたった二人で残ったロー。
大きなケガは無かったものの、体力がかなり消耗していた。
しかし、休む間もなく仲間の治療にあたっている。
彼が仲間から厚い信頼を寄せられている理由が、そこに凝縮されているようだった。
「ロー、刺青の針を滅菌するためのアルコールランプを持ってきた」
「助かる」
医療設備が整っているポーラータング号ならまだしも、ここはただの両替商だ。
多少の包帯や傷薬はあっても、できる治療など限られている。
シャチの肩には縫合を必要とする10センチほどの裂傷があり、ローは裁縫用の針と糸で処置をしようとしていた。
「シャチ・・・悪いが、麻酔がねェ。少々痛くても我慢しろよ」
「は、はい・・・」
アルコールランプで針をあぶり、傷口を縫い合わせていく。
かなり痛いだろうに、シャチはどことなく嬉しそうだった。
「・・・なにニヤニヤしてんだ、お前」
「へへ・・・おれ、キャプテンに治療してもらうの初めてだから、なんだか嬉しくて」
「バカ言ってねェで、傷口が化膿しねェよう消毒液を塗っとけ」
「はい!」
船長は気難しい男だが、ハートの海賊団はみんなどこか明るい。
外では大変な事態になっているというのに、店の中は和やかな空気さえ流れていた。