第6章 真珠を量る女(ロー)
「フフ・・・そこまで言われちゃあ、本当のことを言うしかねェな」
「え・・・?」
世界政府は己の欲深さを隠すため、“珀鉛病は感染しない”ということを公表しなかった。
珀鉛病のことが書かれている書物も、“伝染病”としているものしか残っていないだろう。
だからクレイオを責めることはできない。
そもそも、何故あの男がフレバンスの人間と政府しか知らないことを知っていたのかが謎だ・・・
「珀鉛病は伝染病じゃなく中毒だ。お前が慢性的に珀鉛を摂取しない限り、発症することはねェ。そもそも珀鉛の唯一の産地であるおれの故郷はとうに無くなったがな」
「え・・・そうだったの・・・? ごめんなさい、感染症だなんて言って」
「謝る必要はねェよ。もっと怯えるかと思っていたから、拍子抜けしたぐらいだ」
「ロー・・・」
「だが、おれが“どうやって生き延びたか”を知ったら、本当に怯えるかもしれねェな」
身体中に広がっていた珀鉛に汚染された部分を全て除去し、それを補うためにどれだけの“肉体”を必要としたか。
ローの命のうしろには死体の山が築かれている。
その一番下にいるのが、ローにとって誰よりも大切な人。
クレイオは新しい脱脂綿と針を棚から取り出すと、静かに呟いた。
「どのような手段を使っても、貴方は生き延びることを選択した」
針をノミの先端に括りつけ、墨を吸わせる。
それを、ローの腕にあてがった。
「貴方が誰かからもらったという心は、その命によって守られている」
ねぇ、ロー。
貴方には分からないかもしれない。
私はこうして貴方の肌に触れていると、指先に電流が走るような感覚を覚えるの。
まるで貴方の中にある“心”と“命”が、私に何かを訴えているよう。
「私は本質を見極める両替商であり、本質を身体に刻む彫り師・・・それ以外の世界のことは分からないわ」
だから、怯えようがない。
そう言って、再びローの肌に墨を入れるべく針を突き刺していった。