第6章 真珠を量る女(ロー)
「オイ・・・」
ローは船という限られた空間の中で共同生活を営む海賊をやっているが、パーソナルスペースは広くない。
むしろ他人に気安く触られると、不快感をはっきりと顔に出す方だ。
「これは・・・どういう状況だ?」
だが今、クレイオに抱きしめられている彼の顔に不快の色はない。
拒否するそぶりも見せず、右腕は肘掛けの上、左腕はあぐらをかいた膝の上に置き、そのままジッとしていた。
「客の頭を抱きしめるのも、和彫の工程の一つなのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオはローの頭に回していた腕を解くと、涙の痕のようなクマが色濃く染みついた瞳を見つめた。
「考えるよりも先に身体が動くということがあるでしょ」
「・・・悪いが、おれはそういうタイプの人間じゃない」
「でも貴方、すごくつらそうな顔をしていた・・・誰かに触れてもらったら、少しは気持ちも軽くならない?」
「さァ・・・わかんねェな」
海賊を慰めようだなんて、変な女だ。
ローは眉間にシワを寄せると、膝立ちをしているクレイオを見上げた。
「お前、おれが珀鉛病だったと知って、怖くねェのか? この病気のことを知っているのか?」
フレバンスが滅び、珀鉛病の撲滅に成功したとされたのは14年前のこと。
今では完全に“封印”されている病気だから、当時子どもだったクレイオも知っていたのには驚いた。
するとクレイオは、ローの腕のかつて真っ白なアザが沈着していた箇所を的確に触れながら呟いた。
「ええ・・・以前、本を読んだことがある。かかれば肌が真っ白になり、その病原体は子どもに遺伝してまう、恐ろしい“伝染病”でしょ」
その瞬間、ローの瞳が大きく開いた。