第6章 真珠を量る女(ロー)
「ごめんなさい、答えたくなかったら答えなくていい」
「・・・何故、そう思う」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオは眉間にシワを寄せながら、血と墨が滲んでいるローの肌をそっと撫でた。
「墨の入り方が場所によって違う・・・表皮は変わらないけれど、もっと奥の部分・・・皮下組織のところで何かが違うように感じる・・・」
たとえるなら、“色”が違う。
白い紙と、褐色の紙の上に色を乗せた時、たとえそれが同じ色であっても見え方が変わってくるように。
そう・・・貴方の肌には“白”の痕跡がある。
「彫り師になるためには、人間の皮膚を知り尽くす必要がある。考え得る限りの病気も学んだつもりだけど・・・」
───これは、見たことがない。
「貴方の皮膚は、深いところで何かの痕跡を残している」
だけど、もしそれを語らせることで彼を苦しめるのなら、これ以上聞くことはできない。
ローはしばらく黙っていたが、狂気すら伺わせる静かな瞳でクレイオを見上げ、口をゆっくりと開いた。
「・・・お前、さっきおれにこう言ったな?」
“貴方、良い目をしているわ。素人には分からない程度よ”
「お前も良い目をしている。医者ですら皮膚を剥いで裏返しにしても分からなかったことだろう」
一時はすぐそばまで迫っていた死。
本来ならこうして生きて、海賊をやっていられるはずもない命だった。
「おれはガキの頃、ある病気にかかり、大人になる前に死ぬはずだった」
「ロー・・・」
「遺伝子レベルで侵される、世界最高の医学をもってしても治らない病気」
クレイオ。
これからおれが話すことは、これまで誰にも話してこなかったことだ。
別に隠していたわけじゃなく、ただ口にしたくなかったこと。
それでも話すのは、お前に特別な感情を抱いているからではない。
「おれは・・・珀鉛病だった───」
それを話すのは・・・
表面だけではなく、その奥にあるものを見つめようとする、お前の瞳からは逃れられないと思ったからだ。