第6章 真珠を量る女(ロー)
クレイオの技術は、その全てが見たこともないものだった。
長さ数十センチの細いノミがローの肌を突くたび、部屋に響くのはチャッチャッという聞きなれない音。
タトゥーマシンはジジジ・・・と虫の羽音のような音を連続して出すが、ノミが奏でる音は繋がらない。
1秒間に突ける回数は、2、3回ほどか。
聞く人間によってはビシッビシッとも聞こえる音を立てながら、先端の針に溜まった墨を肌に入れていく。
その音が止むのは、針に墨を吸い込ませる時と、肌に染み込まなかった墨をふき取る時。
「・・・・・・・・・・・・」
身体を刻んでいるのだ、当然、痛みがともなう。
だが、ローの表情にはいっさいの変化がなかった。
その代わり、二つの瞳はクレイオの顔をじっと見つめていた。
ひざを立てた中腰の姿勢で、ローの長い腕を見下ろす女彫り師。
右手で長いノミを持ち、左手は絵柄を彫ろうとしている場所に添えている。
肌の上に置いた親指に針の先端を乗せている様が、まるでビリヤードの構えのようだと思いながら、クレイオの綺麗な手に目を落とした。
静寂と緊張。
不思議と心地が良い。
チャッチャッ
チャッチャッ
彼女を見ていて思う。
本物の刺青とは“点”なのだ、と。
その一点を打つため、ミスが許されない究極の緊張感の中で、長いノミを巧みに操って一突きする。
そうやって生み出された点が折り重なりあい、見事な絵になっていくのか。
チャッチャッ
チャッチャッ
輪郭となる筋を5センチほど彫ったところで、ふとクレイオの手が止まった。
「ロー・・・一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「過去に、なにか皮膚の病気にかかったことがある・・・?」
予想もしていなかった質問に、ローのまぶたが大きく持ち上がり、瞳孔が開く。