第6章 真珠を量る女(ロー)
瞬く間にローの両腕に、既存のタトゥーの直しと、それを囲む太陽のシンボルが描かれていく。
「悪くない」
感想を聞かれる前に、ローの口からはそんな言葉が漏れていた。
「不思議なもんだな・・・別の絵を足すぐらいで、気になっていた部分がまったく目立たくなった」
「人間の皮膚っていうのは、それ自体が特別な魅力を持つ美しいものなのよ。そこにわざわざ墨を入れるのだから、その美しさを損なわないようにするのが大前提」
たとえば、皮膚のシミ一つにしても、それを引き立たせるか、隠すかで身体の美しさは変わる。
だが、それを聞いたローの表情がわずかに曇った。
「墨を入れようが入れまいが・・・本来の魅力が損なわれていった皮膚もあるがな・・・」
「ロー?」
「・・・なんでもねェ。柄はこれでいいから、さっさと始めろ」
クレイオが感じている以上に、ローには重く暗い陰が宿っている。
それはクレイオにとって今は知る由もないことであり、ローもまた、今は伝えるつもりもないことだった。
「───最後の確認よ、心変わりはないわね?」
「ない」
「あと、医者である貴方には聞くまでもないことかもしれないけど、血を見ても大丈夫? 気分を悪くする人もいるから」
「ああ、むしろ大好きだ」
血の匂いを嗅ぐと興奮すら覚える。
これは、外科医の悲しい性というやつだろう。
「それでは・・・」
深呼吸を一つ。
その瞬間、クレイオの纏う空気が変わった。
「6代目ホリヨシ、貴方の御覚悟を彫らせていただきます」
2億ベリーの賞金首をも圧倒する気迫。
伝統を重んじ、最高峰の技術を持つ彫り師は、ゆっくりとローの肌に針を突き立てた。