第6章 真珠を量る女(ロー)
「このマークの周りを、別の模様で囲ってしまえばいいのよ」
「どうやって?」
「たとえば・・・」
スクリュー・プロペラを模したマークの周りを、太陽の輪のモチーフで囲む。
クレイオが咄嗟に描いたものだったが、海中を進む潜水艦と、天空に輝く太陽の組み合わせは意外と悪くないとローは思った。
「貴方は細身だから絵が腕の裏側まで及んでしまうけど」
「構わねェ。コイツだけだと非対称っぷりが目立つが、こうやって一つの“柄”の中に収めちまうことで目が行かなくなる」
「位置も中心から微妙にずれているから、外の円の形を調整して全体的に中央にくるようにするわ」
「ああ、頼む」
彼女の技術を認めたからなのだろう。
ここに来るまではあれほど懐疑的だったローだが、今は素直にクレイオの言葉に耳を傾け、意見を受け入れていた。
「言い訳をするつもりはないし、この仕事をした彫り師の肩を持つ訳じゃないけれど、刺青っていうのは“不完全さ”も魅力の一つなの」
人間の手で描くものだから、“完璧”はあり得ない。
その不完全さ、未熟さをどこまで芸術の域に押し上げるかが、彫り師の力の見せ所だ。
「私も機械じゃないから、完全に左右対称な絵を彫るのは無理。でも、機械には出せない魅力を、必ず出してみせる」
確かな技術からくる、自信。
そんなクレイオの笑みを前に、ローの口角も自然と上がる。
「御託はいいから、さっさとやれ」
確かな自信に対する、信頼。
クレイオの腕を信じ、ローは全てを委ねようとしていた。