第6章 真珠を量る女(ロー)
できれば今すぐ彫ってくれ。
ローがそういうと、クレイオは少し驚いた顔をしたが、着替えてくると言って部屋から出て行った。
準備が整うまでの間、特にすることもないので、畳の上であぐらをかきながら棚に並べられた刀を眺める。
あれは、クレイオの趣味なのだろうか・・・
剣士でないから詳しくは知らないが、自身も妖刀を武器としているだけに、それらが名のある刀匠に作られた“業物”であることぐらいは分かる。
その隣に置かれた棚には、刺青のデザインの参考にしていると思われる、“UKIYOE”と背表紙に書かれた本が数冊。
乱雑なように見えてホコリ一つ落ちていないのは、やはりここが“施術”をする場であるからか。
「お待たせ」
戻ってきたクレイオは、それまでとは違う衣服を着ていた。
上は青みがかった薄紫色の着物、下は同色のゆったりとしたズボン。
それが“作務衣”と呼ばれるものだと知るのはもう少し後のことだが、ローは深い伝統を感じさせるその衣服に興味をそそられた。
「どこから始めたい?」
髪を一つに束ね、化粧を落としたクレイオは、両替商の時に見せていた西洋人形のような面立ちとはまるで違う、“職人”の顔つきをしている。
「まずはコイツをどうにかしろ」
両腕を突き出し、前の島で彫ってもらった肘から下のタトゥーを見せた。
「左右非対称なのと、線が揺れているのが気に入らねェ」
「インクをつかったカラス彫りね・・・確かに線が揺れている。貴方、良い目をしているわ。素人には分からない程度よ」
「だが、気に入らねェ。直せるか?」
クレイオはローの前腕に描かれたマークを指でなぞると、首を縦に振った。
「線の揺れは、上から入れ直すことで修正できる。左右対象じゃないのはどうにもならないけど、気にならないようにする手段はあるわ」
そう言って畳の上に半紙を広げ、細筆でサラサラとイメージ画を描き始めた。