第6章 真珠を量る女(ロー)
「さすが、5代目ホリヨシだ・・・」
腕は肘まで、脚は膝まで、首から背中にかけて全面に彫るのにはどれだけ時間がかかっただろう。
細い線には一切の迷いがなく、キャンバスは人間の皮膚だというのに少しの滲みもなく色を染み込ませている。
これが本当に人間業なのだろうか・・・
人間の身体を何度となく切ったことがあるから分かる。
これは、相当の技術を要するということを。
「ホリヨシは、ある島に伝わる“和彫り”という技術を継承した彫り師のこと」
「・・・・・・・・・・・・」
「使うのは、ただの針。一突き、一突き、手で描いていくの」
「これを手で彫っただと・・・?」
そうやって、他の彫り師には到達できない“境地”の刺青を完成させる。
クレイオは額の前に立つと、ローに静かな瞳を向けた。
「ホリヨシは師匠の背中に学んだ全てを彫り、それが認められた時初めて、その名を継ぐことが許される」
背中は唯一、自分では彫ることができない場所。
伝説の名を受け継ぐ彫り師は、自ら“まっさらな皮膚”を弟子に彫らせる。
「ということは、これは・・・」
「5代目の背中に彫った、私の最初の作品」
そして、6代目ホリヨシを襲名した。
クレイオはとても愛おしそうに、そして悲しげに5代目を見上げた。
「もし、貴方がこの絵に惚れてくれたなら・・・私に貴方の誓いを彫らせて欲しい」
これほどの絵を目の当たりにして、どうして断れるだろう。
あの人の遺志を、あの人が遂げられなかった目的を、自分の誓いとしてこの身体に刻む。
それを頼める人間は、この女しかいない。
「・・・願ってもねェことだ」
ローは感嘆を漏らすように呟くと、持っていた妖刀「鬼哭」を畳の上に置く。
「おれの身体に刺青を彫って欲しい」
それはまさしく、クレイオの持つ技術に心を奪われた証拠だった。