第6章 真珠を量る女(ロー)
宝石や真珠を量っていた女が、伝説の彫り師だと・・・?
これにはさすがのローも驚きを隠せず、眉間にシワを寄せながらクレイオを睨んだ。
「お前が彫り師という証拠はどこにある?」
騙そうとしているのか、それとも、何か裏があるのか。
この女に力で負ける気はしないが、懸賞金を狙っているとしたら油断はできない。
「逆に聞くけど、貴方は何を見てその人間が“彫り師”かどうかを判断するの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「自分のことを医者と名乗る貴方が本当にそうなのか、医学を知らない私には分からないように・・・貴方は彫り師の何を知っているというの?」
たとえば、手術の手つきを見せられて、それが本当に外科医の動きなのか、ただの真似事なのか、判断できるのは本物の外科医だけ。
でも、一つだけ分かることがある。
生きている人間の身体に“メス”や“針”を突き刺すことができるのは、度胸のある人間のみ。
大きな刀を持った海賊と二人きりになっても、恐怖のカケラも見せないこの女のような人間が、他人に一生消えない傷痕を残すことができる。
「・・・確かに、おれには判断できねェな」
ローは口元に笑みを浮かべた。
「だがお前はさっき、6代目ホリヨシだと名乗った」
「ええ、そうよ」
「おれは、5代目のホリヨシが世界最高の彫り師だと聞いたが、6代目のことは何一つ知らねェ。5代目はどこにいる?」
「残念ながら、先代はもうこの世にはいないわ。ホリヨシは私だけしかいない」
クレイオは窓から差し込む柔らかな光を受けながら、ゆっくりと瞬きをする。
「でも、彫り師というのは、客に腕前を惚れられて初めて成り立つ稼業」
「・・・・・・・・・・・・」
「5代目から受け継いだ私の技術を見てから決めるのでも遅くないでしょ?」
そう言って、古い埃がキラキラと漂う中で微笑んだ。