第6章 真珠を量る女(ロー)
「その海賊旗も面白いわね・・・笑っているように見える」
「ああ、そうだ。誓いを忘れねェように───」
心をくれた人の最期の顔を、自分の信念として掲げる。
「この海賊旗が折れる時は、おれの命が尽きる時だ」
海賊旗を身体に刻んでしまえば・・・
たとえ海賊船が燃やされても、仲間が一人残らず殺されても、この海賊旗は決して折れることはない。
この心臓が鼓動を止めるその時まで、大切な人の遺志はここにある。
「───貴方はとても素敵な心をもらったようね」
クレイオはゆっくりと天秤をテーブルの上に置くと、イスから立ち上がった。
そして、ローが見せたスケッチを手にとって微笑む。
「その心は間違いなく、ホリヨシの信念に値する」
コツコツと靴を鳴らしながら窓に歩み寄り、それまで閉め切っていたカーテンを左右に大きく開けた。
静謐な光がクレイオを柔らかく照らし、ローは咄嗟に目を細める。
「貴方の誓い、その身体に彫ってあげる」
「・・・? 待て、お前はただの両替商だろ」
呆気に取られている海賊に、女はクスクスと笑った。
「私がいつ、彫り師ではないと言った?」
真珠を量る女、クレイオ。
彼女が持つ、もう一つの名は────
「私は、6代目ホリヨシ」
世界最高の技術を持つ、伝説の彫り師。
「貴方の心に惚れたわ」
一人の海賊と、一人の彫り師。
数奇な運命に導かれた二人は、この瞬間から一針一針、互いの想いをその身体に刻んでいくことになる。