第6章 真珠を量る女(ロー)
「無駄よ」
ローの思考を読み取ったかのように、クレイオが再びクスクスと笑った。
「力で私を服従させることはできない。もし貴方の望み通りにしたいのなら、貴方の心がホリヨシの信念と共鳴するしかない」
───それを見極めるために、私はこの部屋で天秤を持っている。
「おれの心・・・だと?」
「そう。ホリヨシが墨を入れるのは、“皮膚”だけじゃないから」
貴方の心が、ホリヨシの墨で彩られるに値するか。
もし釣り合いが取れたとしたら、今すぐに貴方をホリヨシに会わせよう。
「貴方の心がここに散らばっているどの宝石や真珠よりも価値のあるものだと分かったら、ホリヨシは喜んで貴方の望むものを彫るでしょう」
するとローは小さくため息を吐いた。
「そいつは難儀な話だ・・・おれの心はもともと、ある人からもらったものだからな」
「心を・・・もらった・・・?」
その瞬間、初めてクレイオの瞳に変化が現れる。
「そうだ。おれの中に最初からあったものじゃねェから、誰かと共鳴するわけがねェ」
どうやら、思っていた以上に伝説の彫り師に会うのは難しそうだ。
これは十分に策を練っていかないといけないかもしれない。
だが、何気なく発したローの言葉は図らずも、クレイオの興味を強く引きつけたようだ。
「・・・その言葉を言う人が“他にも”いたとは・・・」
「どうした」
年代モノの柱時計がコチコチと音を立てる。
1分・・・また1分と、二人の間に流れる沈黙の長さを測るかのように。
“私はあの人に心をもらった・・・”
遠く、幼い頃の記憶が蘇る。
“ありがとう、ホリヨシ・・・貴方は私に自由をくれた”
この世で一番美しいとされる宝石。
それはホリヨシという一人の彫り師の信念だけでなく、彼の命までも守った。