第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
この静かな島にこれほどまでの喧騒が、いまだかつてあっただろうか。
まさか、あなたの弟が海軍本部に攻め入ろうとは・・・
さらに白ひげに向かって海賊王になるのは自分だと宣言するとは・・・
クレイオは天を仰いだ。
「エース・・・聞こえる? 私はいつか海に出るわ」
火傷で血がにじむ手は腹にあてたまま。
遠く、届くはずもないあなたに“鼓動”を伝えるために。
「“海賊王”に会って、あなたの家族を紹介するのよ」
海賊王の“兄”の血を引く、この“子”を。
「あなたが残してくれた命を、私は必ず守ってみせる」
その腹の中には、小さな命の火。
紛れもない、あの夜に愛し合った結晶が宿っていた。
もし、この子が男の子なら・・・
エース。
そう名付けよう。
あなたの子は、きっと誇りに思ってくれる。
「白ひげの息子、“火拳”の血を引くことを・・・」
その瞬間、どこからともなく上がった花火が空に大きく開いた。
それは、エースが見せてくれた大輪の華と同じ。
“ 愛してくれて・・・・・・ありがとう!!!! ”
そんな彼の声が聞こえた気がした。
クレイオの手には、直径1センチほどの円状の火傷。
一生消えることがないだろうその傷は、まるで指輪のような形をしている。
「ああ・・・」
あれほど一滴も流れなかったはずなのに。
今、涙があとからあとから溢れてくる。
「エース・・・あなたは私との約束を何一つ破らなかった」
“お腹すいてるなら、あなたが私を殺さないという証を見せて”
食事を与えた私を、殺しはしなかった。
“寝床が必要なら、あなたが私を犯さないという証を見せて”
家に泊めた私を、犯しはしなかった。
そして・・・
“あなたが私を抱きたいのなら、私をひとりにしないという証を見せて”
私を抱いて、このお腹に命を残してくれた。
もう私はひとりじゃない。
「エース・・・愛してくれてありがとう。そして、これからも愛してる・・・ずっと」
血がにじむ右手に、そっとキスを落とした。
目の前に広がる海は穏やかで、唯一響くのは波の音。