第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
『父親の死から一年と3か月を経て・・・世界最大の悪の血を引いて生まれてきた子供、それがお前だ』
苦しそうに歯を食いしばるエース。
いつも笑っていた彼の、あんな姿を誰が想像できただろう。
『お前の父親は!!! “海賊王”ゴールド・ロジャーだ!!!!』
その事実はあまりにも衝撃的なもので・・・
しばらくの間、世界からあらゆる音が消えた。
大海賊時代の父祖となった男の血筋が存在していたとは。
「先生ッ・・・!!」
数人の教え子達が泣きそうな顔でクレイオの所へ走ってきた。
「あなた達・・・これは子どもが見るものではないわ。早く家に帰りなさい」
「嫌だ!! だってあれ、エースだろ?! なんであそこにいるんだよ!!」
たった一日とはいえ、一緒に授業を受けたお兄ちゃんがまさか海賊だったとは・・・
しかも、子ども達にとって理解の許容範囲を越えることが起こっている。
特に、エースの隣に座って、航海の話を興味深そうに聞いていた生徒は涙ぐんでいた。
「エースのお父さんって・・・海賊王だったの・・・? 先生、知ってたの?」
「・・・・・・先生も・・・知らなかったわ・・・」
いや・・・知っていた。
ゴールド・ロジャーは死してなお、クレイオの夢の中で彼への愛情を語っていた。
「先生・・・エース、どうなっちゃうの・・・? 殺されちゃうの・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
子ども達が不安そうにクレイオの服の裾を掴んでくる。
教師として、“殺されない”とウソをつくことはできない。
でも、“処刑される”と本当のことを言うのは酷だろう。
「みんな・・・こうなったら何があっても、しっかりと自分の目で見て。そして、エースが本当に悪い人だったのか・・・海賊王の息子というだけで憎まれるべき存在だったのか・・・みんなが自分で決めて欲しい」
「先生・・・」
「怖かったら、手を繋いでいてあげるから」
次々にギュッと繋いでくる子どもの手。
それがクレイオには救いだった。
何故なら、今にも倒れそうなのはクレイオ自身だったから。