第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
太陽の光が一切届かない、冷たくて汚物の匂いが立ち込める地下牢。
鉄の輪がはめられた手足は、重たい鎖で壁に繋げられている。
石壁に取り付けられたランプの中のロウソクが、燃え尽きようとしていた。
ここは世界一の大監獄“インペルダウン”の地下6階。
残虐性を極め、世界政府からその存在すら揉み消された危険人物達が幽閉されている場所だ。
黒ひげとの決闘に敗れて全身に酷い傷を負っているのにも関わらず、無慈悲に手足を鎖で繋げられたエースは、そこで項垂れたままピクリとも動かずにいた。
ガチャン。
遠くの方でドアが開く音がした。
そして、コツコツと歩いてくる音。
ああ、この足音の主を自分は知っている───
「おーおー、無残な姿に・・・」
懐かしいと思うと同時に、条件反射で逃げ出したい衝動にかられる。
しかし、息をするのもやっとのエースはただそこでジッとしていた。
「息はあるのか、エース・・・」
「・・・ジジィ・・・」
久しぶりに見るガープ中将は、シワの数こそ増えていたものの、昔と変わらず屈強なオーラを漂わせていた。
しかし、昔と違うのは、いつもの豪快な笑みは消え、エースを気遣うような顔すら見せていたこと。
「お前とルフィにゃあ立派な海兵になって貰いたかったがのう。海兵どころか大変なゴロツキになりおって・・・・・・!!」
“エース・・・お前らは強い海兵になるんじゃ”
何度も何度もエースとルフィにそう言って聞かせていたガープ。
そのエースが海賊として処刑を待つ身となった今、老兵は強い悲しみと落胆、そして虚無感を押し殺していた。
「───おれもルフィも・・・世界的大犯罪者の血を引いてんだ・・・海兵になれる訳ねェ・・・・・・」
父ゴール・D・ロジャーへの想いなど何一つない。
何の記憶も、何の恩もない。
「───まァ・・・そうじゃろうが・・・あいつはあいつでなァ・・・・・・」
ガープは20年前のことを思い出していた。
エースと同じように地下牢の中で両手足を鎖で繋がれていた、“宿敵”のことを。