第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
疲労が限界にきたのか。
二人はそのまま静かに眠りに落ちていった。
そして、目覚めるとエースの姿はどこにもなかった。
ブーツも、帽子も、リュックもない。
ただ、二人で分け合っていた毛布が、クレイオにしっかりとかけられていた。
「エース・・・」
“明日、ここから去っていくあなたの背中を見るのが・・・怖い”
確かに私はそう言った。
だからって黙って出ていくなんて・・・
「・・・意地っ張りはどっちよ」
さようならを言う時の顔くらい見せて欲しかった。
どうせ、私が泣くのを見るのが怖かったんでしょ。
それとも、あなたが泣くのが怖かった?
クレイオはベッドから降りると、窓を閉め切っていたカーテンを開けた。
窓の向こうにハイビスカス、そして果てしない海が広がる。
エースはここに座って外を眺めているのが好きだった。
「エース・・・いってらっしゃい」
太陽の日差しが強い夏島。
私はここで、このハイビスカスが咲く家で、あなたを待っている。
「あなたの家族として、海から帰ってくるのを待っているから」
エース・・・
あなたを愛している人間は海の上だけではない。
あなたの家族は海の上だけではない。
どうかそのことを覚えていて。
クレイオはバナロ島の方角へ動くビブルカードにそっとキスをした。