第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
緑色の髪に凶悪な顔、三本の刀に筋肉隆々の体つきは、どこからどう見ても普通の人間ではない。
ギャングか・・・それとも、海賊か。
少なくとも、まっとうな人間でないことは明らかだ。
しかし、娼婦はゾロに対する恐怖など微塵も見せず、むしろ興味がないといった様子で彼に背中を向けた。
「では・・・シャワーを浴びてきます」
おそらく、彼女にとってこの世に“優しい男”など存在しないのだろう。
どれほどの紳士でも、世間では立派な人間として認知されている男でも、ベッドの上では豹変するもの。
妻や恋人と違い、娼婦には遠慮を必要としない。
彼女達は身を守るものなど何一つない状態で、男達の欲望を全て受け止めなければならない。
それが、どのような形であっても───
水音が聞こえ始めると、ゾロはベッドと窓の間の床にドサリと腰を落とした。
胡坐をかき、壁にもたれ掛かりながらシャワーを浴びる娼婦に目を向ける。
シャワー室といっても、スイングドアで区切られただけの簡易的な造り。
娼婦の身長ならば、かろうじて胸元から太ももが隠れる程度だ。
そういう嗜好の客のためということなのだろうが、ゾロの興味はすでに、シャワーを浴びている娼婦から、テーブルの上に置いていある酒瓶へと移っていた。
今日はまだビールを3杯しか飲んでいない。
どれ、ウィスキーで飲みなおすか。
いそいそと立ち上がろうとした、その瞬間。
バタン!!!
大きな音がしたかと思うと、シャワーを浴びていたはずの娼婦が倒れていた。